「文明としての江戸システム」鬼頭 宏 先生 講談社
読書感想文です。頭のいい大学教授が長年専門に研究して書いた本はやっぱり素晴らしいです。定年後に手元に置いて3カ月くらいかけて読み込んで勉強したいくらいです。
第一章の最初の数ページからして私の感性を揺さぶるります。
そこには永井荷風が愛した大正初めの江戸の名残から始まります。
荷風は晴雨にかかわらず下駄と蝙蝠傘をもってひとりで幕末の切絵図を手にして「てくてく歩き」をしていたそうです。
今私が楽しんでいるウオーキングと似たいような事です。
荷風は葛飾北斎や歌川広重が描いた江戸名所風景、松・柳・桜などの樹木や、品川海湾・隅田川・江戸川・神田川、江戸城を取り巻く濠、不忍池を愛したそうです。
この本ではありませんが、赤坂溜池について調べていた時に見つけた荷風の文章も心に残りましたので紹介します。永井荷風のこれらの本も一度読んでみたいです。
「水 附渡船」より。「上野の山も山王神社の高台も、麓の溜池があって山水の趣がある。老樹鬱蒼として生い茂る山王の勝地は、その翠緑を反映せしむべき麓の溜池あって初めて完全なる山水の妙趣をしめすのである。」
さて話を戻してこの本の巻頭に掲載されている歌川広重の上野清水堂を見ると、偶然昨日TVで上野特集が放送されていて、画に書かれた円形の松が再現されているそうです。
私のように知識も想像力もない人間が、江戸時代の人々が見ていたであろう景色を再現できるのは文章ではなく絵画になります。
200年近く前に描かれた浮世絵の景色が一部でも現世で見ることができればタイムスリップしたような気持ちになれます。
切絵図や名所図を手に東京を巡る散歩は歴史に興味がある人だけが経験できる脳内トリップです。
お金はほとんどかかりませんが、海外旅行で欧州の古い宮殿や教会を巡るのと同等の興奮を感じる事ができます。
観光都市とは、高級ホテルやブランド販売やオリンピック開催だけではなく、極東の不思議の国日本の近世を感じる事ができる景観や文化ではないでしょうか。
首都高速の地下化により日本橋が青空に出るためには3200億円。
それは無理だとしても外濠を整備して美しい水が流れるようにし、神田上水懸樋を再現したり、両国広小路に蕎麦や寿司の屋台市を再現するなんてどうでしょうか。
さて、この本の第一章で記憶の残ったのは人口動態です。
縄文時代~現代までの日本の人口動態が説明されています。
江戸幕府開府の1603年 1200万人 江戸時代になって社会が安定し農業の高度な土地利用による生産性が上昇した。
江戸中期 1721年 3100万人 この間は爆発的に増加したが、江戸後期にかけて伸び悩む。明治維新により従来の薪炭エネルギーから石炭石油エネルギー革命により人口が再度爆発し、
2000年に1億3千万人に到達し江戸時代末期の4倍になった後、人口停滞期に入っている。
200年単位の人口増加期と停滞期を見ると現在の工業化社会は日本においては限界が来ているという事になります。
日本が次の人口爆発期を迎えることができるのでしょうか?またその時はどのようなブレイクスルーが起こっているでしょうか。
私はその時まで生きているのかな?