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世界史としての第一次世界

世界史としての第一次世界


東洋経済「世界と日本の近現代史」60冊

 

この本は4人のジャーナリストや学者へのインタビューをもとにしています。

その中から第一次次世界大戦に至る政治・経済だけを抽出し、とそれに対する感想です。

 

 

私が学生の頃は第一次世界大戦の原因の一つとして、ドイツの3B政策とイギリスの3C政策の対立を暗記させられた。

現在の高校の教科書から3Bと3Cの文字は消えている。

3Bに必要な鉄道建設費用のないドイツが国際金融市場で融資を募ったときに出資したのはイギリスなので対立はうかがえない。

3Bはベルリン/ビザンチウム/バクダッドを結ぶ線だが、当時ドイツの支配下になく、3Cとは地理的に全く接触していないので対立のしようがない。

だからこれは嘘だと説明されている。

ではなぜ我々は昔そう教えられたのか?

それは、当時レーニンが書いた「帝国主義論」にある。

資本主義が膨張し、国内だけで生産消費できない→帝国主義→植民地政策→侵略戦争。これが戦争の原因であると説明している。

実際に当時の戦争は第二次大戦を始めとしてこの図式に当てはまる事が多かったため戦後日本でも採用されたとする。

三国同盟三国協商も、他国と戦争をするためではなく、戦争に巻き込まれないため、敵国を増やさないことが目的だったが、結果としてこれが理由で戦争に巻き込まれてしまったとの事。

ロシアと対抗するためにNATOに加入する国が多いが、NATOに加入することで逆に参戦義務が発生して戦争に巻き込まれる可能性があるのではないか。

また、軍事同盟における相互防衛義務違反や中立義務違反は具体的に何を意味するのか定義が難しく、あとから解釈変更されることが多いと書いている。

尖閣諸島が攻められた時、それは「日本」にとっての軍事的脅威だとしても、安保条約に書いてある「日米共通」の軍事的脅威にあたらないと解釈されるのではないか。

また、軍事的脅威に対処する「行動」とは派兵でなく、ウクライナで行われているような衛星を使用した情報提供や武器や医薬品の提供の事かも知れない。

ウクライナNATOに加入していないためロシアから攻撃されたとするなら、軍事同盟に加入しようが、しようがしまいが結局戦争に巻き込まれるのか。

この本では、軍事同盟は古くから、自国に有利な場合は守られるが、不利な場合は同盟から逃れる方法を探すのが常だと書いている。

だから、軍事同盟があって仲間が困っているから助けようなどと言った、仲良しクラブは国際政治では当てはまらないと書いている。

そうならば、日米安保に依存していても、総合的にアメリカにとって利益がなければ、形だけの軍事支援で終わるのだろう。

軍事同盟は意味がなく、集団的自衛権は意味があるとする意見をTVで見た。日本もNATOに加入すべきとの意見もあるが、唯一極東の日本が攻められた時、遠い西欧から軍事覇権してくれるのか。果たして東アジア中国やロシアに対抗できて日本が参加できる集団的自衛組織が組成できるのか疑問を感じる。

教科書では大戦の責任をドイツの帝国主義としているが、この本では第一次世界大戦の原因は「グローバリズム」だとしている。

1870年代から第一次大戦前を第一次グローバリゼーションと定義している。

イギリスが制海権をもっていて自由貿易主義であり、蒸気船や鉄道により大量の移動が可能となり、電信技術の進歩や海底ケーブルで情報もグローバル化した。

人、物、金、情報が低コストで遠方まで移動できることになった。

資源の価格もグローバル化し、統計では小麦や資源の価格が世界的に収れんしていったという。

交易のグローバル化が金融のグローバル化を促し、金本位制へ移行した結果、保有する金の範囲内でしか自国通貨を発行できなくなったため、財政支出による福祉政策ができなくなった。

 

開戦前の1913年の世界の貿易依存度はとても高く、日本は未だに当時の貿易依存度まで行っていないという。これは驚きだ。これだけサプライチェーンだとか、円安で物価が上がると報道されていても100年前の貿易依存度を下回るっているとは。

グローバリズムにより各国で分業が進み、世界経済全体や、一国全体で見れば経済はプラスになる。特に国際比較優位な産業は栄えるが、そうでない国内産業は衰退する。

例として、安い穀物流入、農民と地主が貧困化。労働者の賃金は緩やかに上昇するが、グローバルな景気変動で雇用が安定しないし、それを上回って資本家に富が集中するため格差が拡大。

国が豊かになる中で衰退する産業に属する人々が貧困化し不満が高まり、それが排外主義やナショナリズムを強めるという。

新大陸では鉄道の施設や農地開墾に人手が不足しており、最初は欧州から新大陸への移民。次に黒人、最後にアジア人が新大陸に移民する事で賃金が抑制された。

ナショナリズムが強まると、自分たちの職や給料が不安定なのは外国製品の輸入や移民が問題だという外国への猜疑心が強まっている状態。

敵は製品や移民を送り込む特定の外国であり、国内にはそれを受け入れるリベラルやグローバル企業が存在するのでそれは裏切り者とされる。

ナショナリズムを煽る事で、新聞は部数を伸ばし、政治家は安易に票を獲得できる。

例えば社会保障を充実する政策は財政の制限があり簡単ではないが、外に敵を作る事はお金がいらない。

オーストリアハンガリー帝国の国内問題があっという間に全欧州を巻き込んだのは、下地として欧州でナショナリズムが高まっていて、国外に敵を探している状態だったという。

オーストリアハンガリー帝国の暗殺された皇太子は、国内のスラブ系の自治権を認める派閥、当時の皇帝は絶対反対派閥。

ここで容認派の皇太子が隣国の青年に暗殺され、ナショナリズムが高まった。

これってアメリカのラスベルの支持を受けたトランプの関税主義と移民禁止であったり、欧州の黄色ベスト運動や移民制限や右翼党の進出と同じ事なのでは?

仮に今、平和を希望している日本の皇位継承者が朝鮮半島の青年に暗殺されたら、ナショナリズムは高まるだろう。

グローバリズムと資本主義の暴走が格差を拡大し、国を分断する仕組みは昔も今も同じだと解説しており、その点は納得できる。

日本のナショナリズムについて。日本は地位協定などにより実質的にアメリカに支配され続けていると解説している。

なのに自民党ナショナリストアメリカ支配からの脱出について触れない。

だから日本のナショナリズムは歪んでいるという。

日本がアメリカと戦争したことを知らない若い世代がいると書いてある。歴史の教科書では近代は後ろにあるのでそこまで授業が届かずに終わるという。

本当ですか?確かに自分の受験で近現代は出題されないと言われていましたが、真珠湾攻撃や特攻隊、原爆投下、B29の空襲など日米戦争は常識でしょう。

沖縄を絡める辺りからちょっと偏向を感じる。

 

旧大国のイギリスを新大国のドイツが追い越すパワーバランスの変化が摩擦と戦争を生んだ。但し最盛期の英国の世界GDPは9%、アメリカは25%。

旧大国のアメリカを新大国の中国が経済面でも軍事面でも追い越す事に加えて、白人と黄色人種の人種問題、自由民主主義と強権共産国家という社会体制の違いがある。

いずれも人類の歴史で解決できなかった対立軸ばかりだ。米中は地理的に離れているのでウクライナ独ソ戦争のように土地を占領する全面戦争は生じないだろうが、現代の戦争はミサイルやネット戦争など物理的に離れていても発生する

19世紀のグローバル化は、北に工業が集中し、南は1次産業が集中した。インドには綿産業が盛んだったが、イギリスの機械織綿製品が流入したため原料の綿花を輸出するだけの国になった。

その後、情報のグローバル化により南に工業が勃興した。北は企画とマーケティングをするだけで、南の工場で生産する。

工業は北先進国の地方の職を失わせ、サービス業へ転換した。サービス業は人口密集地で成立するため、地方から都市へ若者が流入した。

都市では高所得技能者と、単純サービス提供者の2極化が発生する。

日本の課題は、反グローバリゼーションが進む場合に備えて自給自足を進める事。

東京への一極集中を緩和する事。災害や安全保障、少子化、地方の多様な産業発展が必要と結論している。

東京本社で地方勤務が長い自分の感想だが。

まず人口が減少する日本で「地方」とはどこを意味するのか。

限界集落ではないだろう。政令指定都市でもない。30万人都市?

大東名博札は確実だろうが、仙台、金沢、広島、鹿児島はどうだろうか。

小さな子供がいる若夫婦が地方に移住して半自給自足生活するTV番組や、子供が独立した60代夫婦が地方で生活する話を見る分にはいいと思うが、子供が高校進学や就職するほど育った時、老夫婦が要介護になったときを考えているのか疑問だ。

ライフステージによってどこに住むのか正解は異なる。

子供の幸せは子供が決める事だが、子供により多くの選択肢が与えられるのは都市部だろう。