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普通のサラリーマンが充実した定年後を目指します

ヒルビリーエレジー

ヒルビリーエレジー

出版が2017年、5年も前。トランプ旋風が吹き荒れたときのベストセラーを今更読む。

感じたポイント

白人であってもアングロサクソン系以外は見えない差別がある。

著者が学んだイエールは多様性を重視し、白人、黒人、イスラム教など人種と宗教に関係なく入学できたが、一つだけ共通していたのは平均以上の所得がる両親がいる家庭で育った子供だという事。

現代のアメリカ社会の格差は人種宗教より、「所得」「離婚」そして「能力主義」だろう。

イエールロースクールの学生の95%はデータでは中流以上、一族を含めれば実態は富裕層。

南部に住んで低学歴一族に生まれると貧困にあえぐ人生を送る。

貧困は、子だくさん、ドラッグ、離婚、DV,逮捕につながる。

著者は非アングロサクソンで、南部ラストベルトに住み、一族で大学を卒業した人はいない。

地域で最低の高校を卒業し、家族や知人の多くは離婚、ドラッグ、貧困に悩んでいる。

そんな中で著者は全米トップのイエールロースクールを卒業し、弁護士、投資家として成功している。

著者は自分の成功を、才能ではなく努力だと判断しているが、海兵隊で広報官に抜擢され、睡眠4時間で

バイトをかけもちしながら肺炎になるまで頑張る。オハイオ大学でもイエールでも優秀な成績を修めゴルフ部を目指す。

名誉ある学校の出版編集チームに入る事ができるなど普通に努力してできるレベルは超えている。

明らかに能力があり、努力するという能力自体も非凡である。

著者は俗にいう「能力主義」である。

白人労働者階級の貧困や無職は、きつい仕事を避け、向上心を持たない労働者自身の問題であると主張する。

日々に流される事なく、目標をもって極限まで努力すれば学歴を得て貧困から抜け出せるのに、自分の限界を知らずにきつい仕事をすぐやめてドラッグに走る。

本当は「努力不足」なのに、自分は「能力不足」だ、遺伝子の問題だと勘違いして、努力しての無駄だと諦めている。

貧困から抜け出すために自分に何が不足しているか冷静に現状を把握もしない。すべてを政府や外国や移民のせいにしている。

1カ月ほど前に読んだ「実力も運のうち」と比較すれば、著者のような能力主義の主張が、貧困は自己責任であり助ける必要はない

という著者の主張も問題があると感じる。

私にはどちらが正しいのかはわからないが、幸せなのは能力主義を信じる事ができ、裕福な生活を送っている人だと感じる。

 

さて、ラストベルトの白人労働者階級の特徴は自分が貧しいのは自分のせいではなく政府や移民や政治のせいであり、自分にはどうする事もできないので誰かが自分を援助する必要があるというものだ。

大衆は国家予算や外交政策に興味はない。マスメディアや政治家は信じられない。というものだ。

アメリカのメディアは日本と違い、真実を報道するのではなく、自分たちの主義主張を広める道具である。自分達は努力しても無駄で、何も変わらない、将来に希望はない。

家族や友人との絆は深く、地元愛と混ざり合って地域から離れるつもりはなく、仕事がなくてもそこにとどまる。フードスタンプは当然の権利であり、働くより楽だと思っている。

これって日本のマイルドヤンキーに似てないか。

家族や地域以外に愛する者はアメリカ合衆国。世界でもっとも豊かで優れた国であり、第二次世界大戦アポロ計画ニューディール計画。

だからトランプの集会では愛国心で高揚する。しかし、その豊かな国で貧しい生活を送っている自分たちは、政府の責任という事になる。

オバマは天災だ」「メキシコはドラッグ、犯罪、レイプ犯を送り込んでいる」「イスラム教徒の入国を禁止する」こういったトランプのメッセージがなぜラスベスの白人労働者に受け入れられたのか。

それは、「おまえたちが貧困にあえぐ責任は。お前たちではなく、政府、政治家、エリート層、海外からの移民、輸入の不公正だ」と言うメッセージがマッチしたからだ。

そして暴力的で汚くて、ワンフレーズの小学生でもわかる言葉を使った事。それこそが学歴の無い暴力的な南部なまりの白人労働者層が日々会話するスタイルだからだ。

ジョンソン首相も同じタイプか。

一方、オバマがしゃべる癖のない綺麗で流暢な言葉は南部では誰も使わない。

オバマはDVをしないし、健康に気を使い、ジャンクフードは食べないが、ヒルビルはDVが多く、でジャンクフードを食べる。

ちなみに著者が赤ちゃんの時に母親が哺乳瓶にペプシを入れていたのを祖母が見ていた。

オバマが白人労働者から受け入れられない理由は、黒人だからではなく、自分たちが話す言葉、食べる物、暴力と全く異なる世界だからだ。

著者の一族はアイルランドから移住したスコティッシュアイリッシュと呼ばれる民族で、貧困は代々伝わる伝統であり、周りにいるのは、

DV、暴力、離婚、ドラッグ、アルコール、逮捕で苦しんでいて、低賃金肉体労働か無色、ビッチとかファックユーといったスラングを常套句にしていた。

先祖は南部の奴隷経済体制で日雇い、その後は小作人、炭鉱労働、そして工場労働者に就いた。ホワイトトラッシュ(白いゴミ)と呼ぶらしい。

黄色い小さな出っ歯猿もムカつくが、白いゴミはひどい。

西部開拓時代の荒々しい生活が残っていて、法律に従うより開拓時代の人間の本能に根差した善悪で行動する。

こうして4世代に渡る家族の自伝を読むと。一族やその地域が独特の価値観を持つ事になるのはとても理解できる。

ヒルビリーのでは男らしさが重要な価値観を持つ一方で、仕事がなく貧困な男が多いため、それが男たちを一層卑屈にしている。

日本のような単一民族で比較的均質で階層差が少ない世界にすんでいると理解できない事が腑に落ちる。

日本なら九州や東北の限界集落のような人の出入りの無さだろう。

許永中の「海峡に立つ」では、在日と同和が住むエリアで育つと、暴力は悪ではなく正義であり、生き残るために必要なツールであることがわかる。

著者の祖父は44口径、祖母は38口径のピストルを常に携帯していたそうだが、まさかスペシャル弾じゃないよね。

同じ北米大陸に住んで、同じ国籍であっても互いに一生交わる事が無いらしい。それはあえて避けているというより生活圏が異なるため出会う事が無いというものらしい。

例えば私は東京北西部にすんでいますが、足立区や荒川区の人と交わる事はない。別に避けている訳ではなく、そこに用事がない。単発的な用心で立ち寄る事があってもそこに住んでいる人と交流する機会がないだけ。

逆に、中央区や港区の人とも交わる事はない。言っておくと私は地方出身者なので、足立区や港区の知人もいないし実態は知らない。本やTVでのまた聞きだ。

狭い都内でも交わらないなら、広いアメリカではより一層交わる事はないだろう。

著者が生まれたのは「血のプレシット郡」だが、私がググると日本人は3人しか住んでいない。日本人がラスベルの最貧部の情報を知る事は難しいだろう、トランプの当選を予測できないのは当然だ。

米国内の分断は、米国と他国の分断異常だとも書いてあるが、広い英語圏で言えばそうかもしれない。

著者の地域では、「勉強する事は女々しい事だ」「努力するのは無駄で恥ずかしい事だ」「エリートは鼻もちならない」という価値観があったそうだ。

私の小学校時代、その地域にも一部このような価値観があり、私もガリベンと言われることを避けようとしていた。

著者はオハイオ州立大学に進学するときの学費が、地元で家が1軒買える金額であることを知り悩む。祖母からそのお金は必要な投資だと説得されて進学するが、理解の無い親なら絶対に進学させないだろう。

アメリカでは低所得者のための奨学金や学費免除があるが、貧困層家庭では親や周囲は興味や経験もなくその情報にアクセスする事がないため利用されない。

「学校の先生」「ネットの情報」「TVの情報」「金持ちの友達」など情報はいくらでもあるのではないかと思ったが、アメリカでは主要メディアを信頼できると回答したのは6%しかいない。

TVや本や政治家のいう事をそもそも信じていない。

NHKを中立だと思っている大多数の日本人にはわからない世界だ。

ネットもフェイクニュースが多くて、自分に役立つ情報ではなく、自分が見たい、信じる情報しか入らない。

父親にイエール入学を連絡したら、父親が「黒人かリベラリストの振りをしたのか?」と言った。

ラスベスの貧困層がイエールに入るには「黒人かリベラリスト」以外は無理だと思っている。

著者はオハイオ州立大学を卒業し、数十社の就職レターを出すが全て断られる。

しかし、イエールロースクールの2年目には、最高裁判所で活躍する弁護士事務所から年収2千万円を提示される立場になる。

自分の人生が1年で激変した経験を、魔法にかかった。何か得体のしれない力が働いていると書いている。

これこそが学歴社会だろう。

就職活動で成績や履歴書は重視されない。イエールというだけで面接までは到達する。

就職課で教えられるのは「飛行機で隣に座っても許せる人」を演じる事。

会社に馴染めるか、一緒に働けるか、社会性や人柄を見られる。

グーグルの採用担当者が一番重視するのは才能でなく、「一緒に働けるかどうか」だと聞いた事がるがそれと一致する。

著者が家族と一緒に行く最高にお気に入りのレストランは、イエールの友人にとっては不健康な油っぽい料理だった。

食べるもの、話す内容、話すスラング、問題の解決手段が暴力か会話か、それらは全て学校や政府が解決する問題ではない。

家族の問題であるというのが著者の結論だ。

植物に例えれば、土壌(家庭)が腐っているのに水(教師の質や学校教育向上)や日光(学費免除)をしても子供は育たない。

著者の高校の先生のコメントに「政府は教師に対して、生徒の羊飼いに馴れというが、オオカミに育てられた生徒の羊飼いにはなれない」

著者の高校では20%が中退する。大学にいく生徒はいない。

著者の親族でケンタッキーに残った4人は貧困なまま。インディアナに移った4名は成功しており、どこに住むかも大きな要素だという。

著者は祖父母がそばにいて愛情を注ぎ、勉強を教えてくれたり、お金を支援してくれたことと、海兵隊で健康的な生活や努力の大切さを学んだことで家庭では学べなかったことを学べたようだ。