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ヨーロッパの革命:遅塚忠弓  ビジュアル版世界の歴史 講談社

 

フランス革命の初歩的な本を読むと以下のような理解できないポイントがいくつかあると感じた。

絶対王政の象徴である太陽王ルイ14世のたった2代後のルイ16世がなぜ民衆から処刑されるほど権威を低下させたのか。

ヨーロッパ最強の陸軍であるフランス王政軍ははぜ市民や農民の暴動を制圧しなかったのか。

三身分が要求した国民議会の目的がパンをよこせと言う直接的要望でなく憲法制定という難解な事だったのか。

 

私にとっては本書はこれらの疑問を解決する良書でした。

前提として本書は17世紀からのヨーロッパの物質経済的な面から書き起こされており、それこそが私の知りたかった事でした。

まず17世紀のヨーロッパは寒冷期であり常に飢饉、疫病、戦乱が発生していた事、それらの要素が18世紀に変化した事をいくつかのデータやグラフで証明している。

  • 人口の増加。 1300年~1600年のあいだ、ヨーロッパの人口は横ばいであった。フランスの新生児~1歳までの死亡率は30%だったが、1750年には20%に改善。

19歳までの死亡率も60%から35%に改善している。

これにより300年間横ばいだった人口が徐々に持続的に増加し、ヨーロッパの人口は1750年の1億3千万人から、1800年で2億人になっている。

現代においてアメリカとともに先進地域である西欧だが1600年ころは人口が停滞する暗黒の後進地域だったことがわかる。

また、1歳までの死亡率が30%なので、人間も他の動物と同じく食物の制限によって自然淘汰されていた時代です。

現代先進国では乳児死亡率が1%なので、人口が逓増し環境破壊や気候変動などを引き起こしたのですね。

  • ヨーロッパの温暖化と農業技術の進歩により穀物生産が少しずつ上昇した。

フランスの穀物生産量は1700年に725トン、1800年に1,000トン。 家畜は同600フランから1500フランに上昇している。

現在ヨーロッパと言えば肉食のイメージだが、1700年頃の農村では肉食は一般的ではなかったと書かれており興味深い。

生産増大と流通制度の進歩により穀物供給と小麦価格の安定がなされた。

当時の小麦価格と死亡者数のグラフを重ねて、相関している事を説明しており興味深い。

小麦やサトウキビは人類の好きなものを提供する代わりに世界中で栽培されている事から、人類を利用して種の繁栄を達成したという説を聞いた事がある。穀物に意思があるかは別にして、結果としてはそのとおりだろう。

鳥の糞に混ざった果実の種により植物が広がる事と似ている。

本書においては版画が多用されているが、農村の食事風景の版画を掲載しており、昔は4人家族でスプーンが一つを使っており、産業革命前にはそれがパン、スープ、酒瓶が描かれており絵で見ればとてもわかり易い。

 

  • 商品経済と資本主義の浸透

農業生産の増大により余裕のできた農村におおいて多様な商工業経済が発生、職業の分化、分業制、富農や商工業者が発生。農村においても穀物生産以外に機織りなど商品経済が発生。

都市部でマーケット発生、自由な経済活動のニーズが高まる。資本の蓄積、富農の発生。

イギリスのGDPは1700年を100とすれば、1800年は250と2.5倍になっています。

 

  • イギリス革命による啓蒙思想の全ヨーロッパへの輸出。

印刷技術の進歩と識字率向上。 フランスの識字率は17世紀末の30%から18世紀末に50%に向上、これにより啓蒙思想が広がった。

イギリス革命権利の請願、権利の章典

 

西欧の全体的な革命への流れについてはちょっと順番が違っていたり、同時並行で進んだりしている事を表現できませんが、以下のようなサイクルで西洋において絶対王政から立憲君主制や共和制へ移行したという事でしょう。

農業革命→人口増→農村の商品経済拡大→産業革命→グローバルな商品経済→資本の蓄積と格差拡大→大貿易商人や大借地農園主などブルジョアジー身分の発生→封建制崩壊

ではフランス固有の要素としては次の通りでしょう。当時人口の95%は第三身分である農民や零細手工業者であった。富農や貴族は領主として領地で通行税、市場税などを課税し、製粉工場やブドウ絞り機械の独占権などが自由な経済活動の妨げとなっていた。

商品経済の発達により農民や商工業者は自由な経済のニードが高まっていた。

ルイ14世以降の財政悪化(ベルサイユ宮殿、数度に渡る対外戦争、イギリスとの争い、アメリカ独立戦争への支援)、をれを解決するために増税を計画したが貴族からも市民からも反対にあった。

まとめると、西洋全体としては、温暖化、農業と産業時術の進歩により人口や生活様式が変化し、商品経済が発達した事で富農や資本家など多様な身分が発生した。フランスとしては王室財政が破綻し、識字率向上により合理的な考えや知識が広まった。ブルジョアジーの代表としては弁護士、医師、出版業者、文筆家が国民議会に選出されている。

そして最後に国民の8割程度を占める零細農民は飢饉と重税に苦しんでいたため、パンをよこせとか、税金の帳簿を燃やすために領主や国王に対する蜂起を行った。

革命の頃にはこれに貴族の陰謀とか夜盗の襲来といったパニックが発生し全国的に反乱が広がった。

数年に渡る飢饉と王室権威の低下により体制が転覆する事は時間の問題であったという事ですね。

つまりフランス革命は歴史の必然であった。

過去100年ほどの間に溜まったマグマが、国民議会の招集からは目まぐるしい派閥争いと分裂があり、国王の処刑、他国からの干渉による戦争、ナポレオン戦争へと急激な変化を引き起こしたという事でしょうか。

 

今回はフランス革命の前提条件となる社会経済の状況を何となく把握しました。この理解をしないまま、ジロンド派とかジャコバン派とか細かい派閥争いをフォローしても迷路に迷い込みます。

また啓蒙主義を理解しようとしてもルソーを勉強するだけで難しすぎて諦めるでしょう。