teinenchallenge’s blog

普通のサラリーマンが充実した定年後を目指します

100年の孤独

宮崎に数年住んでいた私にとって「百年の孤独」はプレミアムな焼酎であり、生産量が少なく徳仁天皇が愛飲している皇室御用達焼酎という事で当時は定価では入手困難な幻の焼酎だった。

23年の通販価格でも720MLで6千円程度している。

当時宮崎市内で一般的に飲まれる焼酎は白霧島を筆頭にした20度の芋焼酎であり、900ML900円程度が相場であり100年の孤独など定価でも高いと感じる物であった。

麦を主体してウィスキーの要領で樽の香りをつけたものと、工場の金属タンクで大量生産生産される芋焼酎を値段で比較しても意味はない。個人的にはお湯割りにして沢山のめて芋の香りが楽しめる芋焼酎の方が美味しい。

宮崎県人に聞いても芋焼酎の方が美味しいという人が多く、百年の孤独は自分では飲まずに県外の人への贈答品、観光土産品だという人が多い。

さて、先日とある書評に目が留まった。コロンビア出身のノーベル賞受賞作家作の百年の孤独という本があり、家族がいても、出世しても孤独を感じる人におすすめしていた。

コロンビア?ノーベル賞?ちょっとウンチクのネタになるかもしれない。孤独?日本の中年男性は世界で一番孤独だとか、東京の孤独死は年間4200人で毎年増え続けているという記事を見れば自分事だしな。そんな打算で読み始めて後悔した。

 

まず登場人物の名前が覚えられない。「ホセ・アルカデディオ・ブエンディア」「アウレリャノ・ブエンディア」等、ミドルネームがあり長い。そもそも作者のフルネームは「ガブリエル・ホセ・デ・ラ・コンコルディアガルシア・マルケス」。落語の寿限無か?。日本人には発音し難いし一族の物語なので名前が似ている。

例えば、NHKの光る君に出てくる藤原氏。義務教育で全国民が暗記を求められる藤原道長が登場するが、登場人物の多くが藤原姓であり、親から1字貰うため同じような名前が多く家系図がないと理解できないとネットで話題になっているほどだ。ならば中南米の100年に渡る一族の名前など誰しも混乱するだろう。

物語では先祖のライフイベントを回顧するためいきなり先祖の名前が出てきて時系列でも混乱する。自分で家系図をメモしながらでないと読めない。

ふと見ると本の冒頭に家系図が掲載されているではないか。

次に、日本人に馴染みのない歴史上の人名や地名が多い「ユダヤ婦人ソマリア」「リオアチャ」「ネールランディア協定」などスペイン語圏の人ならしっている単語だが、私は注釈を参照しないと理解できない。

光る君をコロンビア人が見れば「陰陽師安倍晴明」「筑前守」など前提知識がなければ楽しみが削がれるだろう。

そして、空飛ぶ絨毯や130歳まで生きる人や半分人間の顔をしたクジラなどファンタジーが満載されていて理解に苦しむ事。

SF小説なら知的好奇心が満たせるし、魔法物の映画なら映像で楽しめるが、この手のファンタジーをテキストでは楽しめない。脳内で映像を想像できないほど独創的なのだ。                                                                                                                                          

このファンタジーは作者が、祖母から聞かされた迷信や伝奇寓話が面白かった経験からその寓話に基づいて書かれたために、この作品の不可欠の要素な訳だが、それが分かり難いとなると根幹にかかわる。

魔術的リアリズムとして他の作家に多大な影響を与えたそうだが、日本人にとっては感覚的に馴染みにくい寓話ではないか?

日本を代表する村上春樹氏の「1Q84」に登場する小人が紡ぐ繭や、高速道路の非常階段を降りると異次元に入り込むファンタジーさえも私には馴染みにくいのだから、中南米熱帯雨林を舞台にしたファンタジーは尚更だ。

ストーリとしては、登場人物の多くは精力絶倫で近親相姦で精神病になるなど暗いものが多い。軽い文体でファンタジー風のためそこまで読者を落ち込ませないが内容としては暗い。500ページ近い長編だが、章が分かれておらず、起承転結が明確でない。日本の寓話なら勧善懲悪や長幼の序をとくなど意図が明確だが、この本の寓話は何を意図しているのかが分かり難い。

物語のラストは、100年前に主人公の一族の始祖の村に巡業していたメルキアデスというジプシーが残した暗号文が、その後100年間の一族の歴史を預言しており、その歴を解読した瞬間に一族の最後の登場人物や町が滅びる事を予感させて終わるのだが、落ちとしては少し物足りない。

「幻想を組み込んで、一つの大陸の生と葛藤の実相を反映する豊かな創造の世界を表現した」がノーベル賞受賞理由だそうだ。確かには生きるとは何か?を考えさせられる豊かな幻想世界が広がっている事は感じた。

しかし、私には題名に込められた孤独について新しい発見はできなかった。確かに精神疾患や空想癖のある登場人物が多く、大家族なのに家族に無関心で孤独な登場人物が多いが、共感できない。

この本はスペイン語圏では爆発的に売れて、日本では60年代のラテンアメリカブームで大江健三郎筒井康隆池澤夏樹寺山修司など知識人なら読んでいないと恥と言われたらしい。

そんな本作品を面白くないと感じ、もう一度読むか?と言われればNOだ。自分には知識人や文学を楽しむ素養の欠片も無い事を改めて認識させる残念な作品だった。

 

話は全く違うが、小津安二郎東京物語」を見て面白かった。                             

これも家族の問題や孤独について扱っているが、ファンタジーは一切なく、ありふれた日常を淡々と描いている。この映画は昭和を生きた日本人シニアなら多くが共感できるのではないだろうか。

もし私が20代や30代であれば寝てしまっただろうが、定年を間近にして異郷に暮らすシニア男性になった現在の自分にはとても面白く2回も見てしまった。